田中秀雄『朝鮮で聖者と呼ばれた日本人』重松髜修物語

2010年4月22日木曜日

朝鮮農村物語 我が足跡 鵲(かささぎ)の友情 5

 弾丸に当らなかった二羽の鵲は飛んで逃げたはずなのに、撃たれた友鵲を見て一度飛び立ったがまた後戻りしてその側に飛んで降りた。そして苦しんでいる友鵲を悼むようにギヤァギヤァ鳴き騒いだ。

 私は何の気なしに撃ちとめたこの鵲の意外な有様を見て、何だか薄気味悪かった。進さんもじっと見ていたが、
「重松さん、僕も鵲を一度撃った経験があるが、実際鵲くらい友情に厚い鳥はないですよ。あの有様を見ても人間以上かもしれませんね。恐らく貴方がそばに行って捕まえても逃げないでしょう。」
「気持ちが悪い鳥ですね。それにああして墓の上に落ちて騒ぐのは。」と言いながら、私は哀韻をもらしている鵲から目を離さなかった。

 撃たれた鵲はだんだん羽ばたきをしなくなって、愈々事切れてしまったらしかったが、友鵲はなお悲しそうに、弔い鳴きを止めなかった。進さんはまた、
「この二羽の鵲は、あの死んだ鵲の死骸がある限り、今夜もここを離れないでしょう。」
「あんな単純な鳥だが、ばかに友情が厚いですねえ。」
「ええ、そうです。この前私が撃ったときも全くこのとおりでしたよ。」
「何だか気味が悪いですねえ、うっちゃらかして帰りましょう。」と言ったが、何だかお互いの人生を暗示でもされるような気がしてならなかった。私が銃を肩にかけて歩き出したら、進さんもまた歩き出した。

 二人は思い思いに、撃たれた鵲の死について考えながら丘を下りたが、なおも墓山では、鵲が友鵲の死を悼み悲しむ声が幽寂な秋の黄昏の空気を震わせていた。

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