田中秀雄『朝鮮で聖者と呼ばれた日本人』重松髜修物語

2010年4月22日木曜日

朝鮮農村物語 我が足跡 鵲(かささぎ)の友情 3

 それから二十日ばかり経ったある日曜日であった。私は朝早くから進さんと二人で、崔さんの部落に雉を撃ちにでかけた。進さんは邑内狩猟家の白眉で、出猟すれば必ず二三羽の雉を腰にぶら下げて帰った。偶には一日にノロの二頭も撃ちとめて、邑内の人々を驚かせたりしていたが、私がついて行くときは奇妙に何時も不猟であった。

 二人は小高い丘や大きな山を幾つも越えて、崔さんの部落に出たが、途中では何の獲物もなかった。部落の外れに一軒のささやかな温突家があった。それが天にも地にも唯一軒の崔さんの安息所であった。家の直ぐ裏には、急勾配の山がいまにも崩れかかりそうに迫っている。その山裾から中腹までは石ころばかりの火田で、所々にひょろひょろとした玉蜀黍が、ぽつんぽつんと植わっていた。まるで石の中から生えているようだ。

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