田中秀雄『朝鮮で聖者と呼ばれた日本人』重松髜修物語

2010年4月28日水曜日

朝鮮農村物語 我が足跡 貫通銃創 4

二十分も経つと、韓公医が白い予防服を着て駆けつけ、私を起こして腰のあたりを見ていたが、紺サージのズボンの臀部が、十七形の時計大ほどズタズタに破れて、そこからシュウシュウと噴水のように鮮血が湧き出ているのを見つけ、
「ハハァ、これは射出口ですねぇ。大分傷が大きい。」と呟きながら、
「盲貫でなければよいが・・・。」と言って再び私を仰向けにした。

 私は自分で洋服のズボンを脱ごうとして、右の大腿部をさすってみた。すると右手に生温い血汐がヌルヌルとくっついて、全面の中央部に人差指が入るほどの穴があいているのに気がついた。
「おお、ここもやられている。」と言ったら、韓公医は急いで脱脂綿で血汐を拭いとっていた。それは膝から四寸ばかり上の前面に直径三分位の穴があいて、そこから真紅の血がプツプツと吹き出ていた。
「ははァ、これが射入口ですね。これは前から狙撃されたのですよ。右腿部の前面から右臀部にかけて、約一尺四寸の貫通銃創ですねぇ。」と韓公医は言った。

「公医さん、負傷の程度はどうですか?」と私は公医の顔を見つめた。公医は脱脂綿で、迸(ほとばし)り出る鮮血を拭いながら、
「理事さん、大丈夫、傷は浅い。二週間で全治しますよ。」と言って私を励ましてくれたが、更に分遣所長と進さんとを顧みて、一段声をひそめて、
「実際これは中々重傷ですよ。もし出血が止まらなければ、危険ですね。」と言ったらしかったが、私には充分それが聞き取れなかった。

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