私は無言のままで、その短刀を受取って、腰に手挟んだ(たばさ)んだ。そして、
「さァ、行きましょう。」と、進さんを促した。進さんは、
「重松さん、住みなれた家も、これが最後となるかもしれませんね。」と、懐かしき我が家を振り返りつつ歩き出した。
真っ暗な私の家で、柱時計がチーンと一時を報じた。
早春三月の夜風は、犇々と肌に迫ってくる。仰げば晴れ渡った大空には無数の星が淋しく瞬いている。
時折憲兵の佩剣の音や靴音が聞こえるばかりで、夜更けた邑内は全く湖の底のように静寂であった。
私は重松髜修の孫娘のひとりです。昭和16年に発刊された重松髜修著「朝鮮農村物語」が様々な方の手により、また陽の目を浴びようとしています。皆様に感謝しつつ、祖父の記した朝鮮農村物語を少しずつではありますが更新していきたいと思います。是非ご覧ください。
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