田中秀雄『朝鮮で聖者と呼ばれた日本人』重松髜修物語

2010年4月28日水曜日

朝鮮農村物語 我が足跡 貫通銃創 1

 充填していた挙銃の弾丸が無くなったので、私は一応憲兵隊の構内に引き下がろうとした。丁度その時私の目の前に、灰色の防寒帽を被った大男が、不意に私の傍に走り寄り、何か突きつけたなァと思った瞬間、大きなゴム製の弾力のある棒で、イヤと言うほど打ち殴られたような気がして、二三歩憲兵隊の構内にたじろいでバッタリ其処に倒れた。
「何ッ くそッ! 今倒れてなるものか。」と気を張って立ち上がったが、また倒れた。そして倒れては起き、起きてはまた倒れたが遂に私は起つことができなかった。

 私の倒れた跡には、点々と鮮血が滴って、右足に巻いていた柿色のゲートルは、真赤に染まった。
「しまった! やられた!」と私は思わず叫んだ。そして進さんから貰った兼氏の日本刀を杖にして立ち上がったが、既に右腿部に負傷していた私は、鮮血淋漓として迸(ほとばし)り、最早一歩も歩むことができなかった。

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