田中秀雄『朝鮮で聖者と呼ばれた日本人』重松髜修物語

2010年5月24日月曜日

朝鮮農村物語 我が足跡 真の内鮮融和 5

 辞して南方の小高い丘に上って、その当時葬られた暴徒の墓に詣でた。芝草に覆われた土饅頭の墓には、所々に名もない小さい白い花が無心に咲いていた。私は静かに跼(せぐくま)んで暫し黙祷を捧げた。

 踵を返(めぐら)すと私が嘗て撃たれた元の憲兵隊の正門の扉は赤い夕日に照りだされていた。

 私は芝草を踏んで丘を下りた。裏山の保護林では閑古鳥が淋しく鳴いていた。

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