病院から久し振りに帰ってみると、陽徳の山野はもう初夏らしい彩りがみえていた。草庵の楓さえも知らぬ間に手洗鉢に覆いかぶさる程伸びていた。
負傷以来、七十五日目に初めて風呂に入って、熟々(つらつら)自分の身体に見入ると、撃たれた右足はげっそりと肉が落ち、全く子供の足のように痩せて、生々しい弾痕が大腿部と臀部に熟れきったナツメの皮を張ったようにのこっていた。
私は自分の変わり果てた姿を見つめて、轉た感慨無量であった。そして風呂から上がると、病床に横たわっている命の恩人進さんを松葉杖に縋って訪れた。進さんは私が退院して帰る一週間前から病みついて、毎日毎日熱が上がるばかりで、今では四十度近くになって、久方振りに私が帰ってきても、僅かに頷くばかりであった。
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