田中秀雄『朝鮮で聖者と呼ばれた日本人』重松髜修物語

2010年5月24日月曜日

朝鮮農村物語 我が足跡 再生 4

 その翌日また昨日の輸送車に乗せられて、診察室に引き出された。そしてH外科医長は、博士の院長さん立会いの上診察を始めた。臀部の弾痕を押さえてみたり、前の傷口からガーゼを引き出したり、足を捕えてグルグル廻してみたりした結果、これは大きな血管や神経や足の運動に必要な重なる筋肉が大分切断されているが、しかし骨には故障がないらしい。しかしX線で写真を撮ってみないと分からない。とに角中々重傷だと診察された。

 そこで私は寝台に横になったまま、
「どうでしょうか? 治りましょうか?」
「治りましょうかとは?」とH外科医長は私の顔を見た。
「将来跛足になるでしょうか?」と今度は具体的聞いてみた。
「それは免れないでしょう。私は貴方がこれだけの重傷でよく助かった。全く運のいい方だと思っていますよ。」と口重いH医官は言った。私は多少の希望を持っていたが、跛足は免れないでしょうと言い渡されたので、今まで少しづつ動かすことができていた足が、急に全く動かなくなったような気がした。

「それでは、この状態で進むと、何時頃になれば松葉杖に縋らないでも歩けるようになりましょうか?」とまた私は聞いた。すると今度は傍らにいた院長がもの優しく、
「さァ、それは何とも申されませんが、とに角貴方は再生したとお思いにならなければね。」とにこやかに言って眼鏡越しに私の顔を見た。

この院長の言葉に対しては、もうそれ以上何も聞くことはなかった。すべてが宿命である。私は心の中で再生、再生と繰り返して安らかな気分になり、だんだん明るい心持ちになることができた。否寧ろ今までに体験したことのない勇気と心の輝きをはっきり意識することができた。

0 件のコメント:

コメントを投稿