それから間もなく平壌から、井戸川旅団長が副官と共に、陽徳守備隊の視察に来られた。そしてその夕方、旅団長はわざわざ私の茅屋を見舞いのために訪れられた。
四方山の話から私の負傷のことに移ったとき、旅団長は煙草を吹かしながら、
「僕も若い士官のときに、大腿部と胸部とに二発貫通銃創を蒙ったことがあったが、それが今なお気候の変り目と厳寒にしびれて痛みを感ずることがあるが、それでもこの通り元気だよ。まァとに角負傷は予後が大切だね。殊に君のは僕のと違って大分重傷だ。それに弾丸は前方から射入して大腿骨の上を走って、歩行に最も大切な臀部の筋肉が切断されているようだから、大事にしなけりゃね。明日平壌に一緒に行きましょう。」とすすめてくれた。
それで私は傷口は癒えてはいないが、身体も大分確りしてきて、途中自動車に揺られても出血する恐れがなくなったから、愈々平壌に出て慈恵医院に入院することにした。
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