その翌朝邑内の人々から見送られて邑内を発った。自動車には旅団長の一行と私共と、それに二人の子供を連れた洪君の奥さんが図らずも一緒に乗り合わせた。
春になったら必ず奥さんを迎えに来るといって出発した洪君は、今絢爛たる春に巡り会いながらも遂に迎えに来ることもできないような身体になってしまった。僅かの知人に見送られて、人目を憚るようにして、長い間住み馴れた陽徳を孤影悄然として引き揚げていく奥さんのいじらしい姿を見たとき、私は理事として一掬の涙を催さずにはいられなかった。
「奥さん。」と私が言ったら、僅かに、
「ハイ・・・。」と答えたばかりで、洪君が出発してから生まれた無心に眠っている赤ん坊を抱きしめて顔をうつぶせてしまった。私はもう胸がいっぱいになって、それ以上何も言えなかった。
自動車は重畳たる山岳を或は上り或は下りして、爆音を立てながら三十八里の山路を、午前八時に出発して漸く午後五時過ぎに平壌に着いた。
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